大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和38年(家)274号 審判 1963年11月16日

申立人 上野修(仮名)

相手方 下野花子(仮名) 外一名

利害関係人 上野一郎(仮名) 外一名

主文

相手方上野治は、利害関係人両名に対し、昭和三八年一一月からその存命中毎月末日限り一人につき金一、五〇〇円宛を同人等方に持参または送金して支払え。

理由

申立人は、利害関係人等の扶養の程度方法について、関係人間で協議が調わないので本件調停の申立をなした。しかるに、当庁において八回に及ぶ調停の結果、昭和三八年一月二一日不成立となり審判に移行した。

そこで、当庁調査官補仮井暁子の調査の結果によると、次の事実が認められる。

(一)  利害関係人両名は、夫婦でその間に三男五女があり、申立人は、その四男、相手方上野治は三男、相手方下野花子はその長女である。利害関係人上野一郎は、年令六五才で、かつて住友金属工業株式会社に勤めていたが、昭和二九年に退職し、その後他に職を求めて働いていたけれども、神経痛がひどくなり耳も遠くなつたので、現在では自宅において静養中であつてもはや稼働能力はない。一方利害関係人上野ハルも、年齢六三才で、高血圧になやみ、毎日通院している状態で、働くことは不可能である。そこで利害関係人らは、申立人と五男上野明との四人で肩書住所において同居していて、その生活費として、申立人と上野明から各一万円宛を出してもらい、他に相手方下野花子を除く四人の嫁いだ娘から各一、〇〇〇円宛の支送りをうけているのであるが、家族四名として支出は、医療費も含めて、毎月約二万七、〇〇〇円程度を要するため毎月三、〇〇〇円程度不足し、これを申立人が主として補填して来た。申立人と上野明は、共に○○金属工業株式会社に勤務しているが、勤務年限が三年程度で月収は共に約二万円程度にすぎず、殊に申立人はすでに二七才で、婚姻の準備を必要とする年頃である。なお、利害関係人一郎は、現住する家屋(床面積一九坪二合一勺)とその敷地(二〇坪九合一勺)とを所有しているが、他に財産はなく、単に家賃等の支払を要しないことにとどまる。

(二)  相手方上野治は、妻夏子と長女秋子(当六才)の三人家族で、昭和三七年三月頃から一時両親である利害関係人ら方に同居したこともあつたが、両親や弟らと治の家族との折合いが悪く、感情的な溝が深まるばかりで、遂に同年八月頃別居して現住所に妻や子を伴い移つて行つたのであり、感情的なしこりは双方の間にまだ残つている。相手方治は、現在食堂で働き月収約二万円を、その妻も子供を近所の実家に預けて看護婦として勤め月収約一万五、〇〇〇円をそれぞれ得ているので今のところ生活に左程不自由はなく、治が、失業したときは別として、現在の状態では申立人と同程度の負担として両親に毎月三、〇〇〇円宛送金可能である旨述べている。

(三)  相手方下野花子は、相手方治を除く弟妹との仲が悪くなつているが、これは、他の弟妹が両親に対して小遣として少しずつでも出しているにもかかわらず、相手方花子方では、家屋を新築しながら両親に少しの小遣も出してやらないからであり、また、相手方治らと両親らの紛争に際しても治の立場に同情を寄せていたからでもある。しかし、相手方花子方は、夫和男のほか、長男初男(当一八才)、長女松子(当一五才)二男二郎(当一三才)三男三郎(当一一才)、四男四郎(当八才)の七人家族であつて、生計は夫和男と長男初男の二人の働きに依存し、他の子供はまだそれぞれ進学している状態にある。すなわち、和男が○○市役所に勤務し、月額手取り二万九、七〇〇円程度(支給額から共済組合等の掛金を控除したもの)の収入と、初男が○○ガス株式会社に勤務して月額一万一、五〇〇円程度得ている収入とによつて賄つていて、生活必要経費は大体毎月三万八、八〇〇円程度であるところ、殊に家屋を新築したことにより毎月五、〇五〇円宛の費用償還のため家計は相当ひつ迫している。そのため、相手方花子自身も支出の増大になやみ働きに出たい意向であり、生活はかなり苦しく余力はない。

してみると、上記認定の如く本件は利害関係人らに対する金銭的扶養方法を問題としているのであるが、申立人は、毎月一万三、〇〇〇円程度を、その家計費の一部として支出しており、同居者として自己の生活費を控除しても約六、〇〇〇円程度両親のために負担していることになる。一方相手方治は、自ら毎月三、〇〇〇円ならば両親に対して支出する意思を明確に表明していて、この程度の金銭的負担はその収入や生活状態から可能であると認められるが、しかし、相手方下野花子については、本人には収入がなく、その家族の収入により家計を維持し余力のないこと上記認定のとおりであるから、現状では両親に対して金銭的負担をさせるわけにはゆかない。(ただ他の妹達が両親に対して僅かずつでも支出していることを考慮すると、申立人としては相手方花子に対しても妹達と同程度の負担を望みたいところであろうが、現状ではやむをえないところである。)そうすると、申立人と相手方治とに両親に対して同程度の金銭負担をさせることとし、かつその公平をはかるためには相手方治にその申出にかかる金額を負担させて、申立人の支出を軽減させるのが諸般の事情からみて相当である。よつて、相手方治にのみ、利害関係人等に対して昭和三八年一一月から毎月末日限り一人につき金一、五〇〇円宛(合計三、〇〇〇円)を支払わしめることとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例